資産形成を始めたいけど、何から手をつければいいのかわからない」
多くの人が金融知識に不安を抱え、資産形成を踏み出せずにいます。新NISAやiDeCoなどの言葉は聞いたことがあっても、自分に合うのか理解できず、リスクを避けてしまうことも少なくありません。
今回は、国際金融の専門家でありながら15年以上にわたり、金融教育の研究を続けてきた大阪公立大学の西尾 圭一郎准教授に、金融教育の重要性や各世代の資産形成方法、日本の金融教育の課題について話を伺いました。
話を聞いたのは西尾准教授!

西尾 圭一郎 (ニシオ ケイイチロウ)
●大阪公立大学
大学院経営学研究科 グローバルビジネス専攻・商学部 商学科 准教授。
日本の金融教育は遅れている?

ーー日本の金融教育は、アジア各国と比較して遅れているのでしょうか?
アジアは各国で考え方が異なりますが、稼ぐためのお金の知識や貧困からの脱出を目的に金融教育が行われています。
そのため、アジア各国と比較すると、金融教育が遅れていることはありません。
日本はお金はあるけど投資をしない、詐欺に遭いやすい、貯蓄格差があるといった課題があり、先進国の中では金融教育が遅れていると言えます。]
【教えて西尾教授】金融教育の重要性とは?

ーー金融教育は個人の資産形成において、どのような影響があるのでしょうか?
金融教育は単なるお金の知識だけでなく、自分の人生を考えるきっかけになります。
金融知識がないと、詐欺に遭ったり、無計画な支出で老後に困ったりする可能性が高いでしょう。
資産形成は早く始めるほど、複利の効果で有利になります。若いうちから金融教育を受けることは、人生の選択肢が広がることにつながるでしょう。
西尾准教授が考える各世代の金融リテラシー

ーー金融リテラシーが高い人と低い人の違いは何でしょうか?
金融リテラシーが高い人は、自分のことをよく理解し、自分の意見で決めています。
例えば、新しい投資商品が出ると、リテラシーが高い人は「これは自分に合っているのか」「リスクはどの程度か」を分析し、必要であれば詳しく調べた上で判断するのです。
一方、金融リテラシーが低い人は他人の意見に流されやすく、十分理解できていないまま、投資してしまうことがあります。
友人の「これはいいよ」という言葉や、インフルエンサーの意見だけを理由に投資を決めてしまいます。自分の経済状況やリスク許容度を考えずに、周囲の意見に流されてしまう点が大きな違いです。
ーー金融教育を受ける機会がなかった大人が、金融リテラシーを高めるためにおすすめの方法はありますか?
これがおすすめと断定することは難しいですが、お金の使い方を教えてくれる書籍は、参考になります。まずは、お金を貯めてどうなりたいのか、理想を考えましょう。
最近は投資信託が先行し、「とりあえずオルカン(全世界株式)」という風潮があります。
しかし、目標が定まっていないまま、投資をすることは危険です。目標を決めると、投資が必要なのか、どのような投資をどの程度するべきか、を考えることができます。
20代からの資産形成:リスク許容度を知る

ーー20代から投資を始める場合、何から始めるといいでしょうか?
自分のリスク許容度を知ることから始めましょう。
預金通帳からいくら減ったら焦ってしまうのか、安心できる金額はいくらなのかを把握すれば、残った部分を投資に回せます。
ーー20代が資産形成で陥りやすい落とし穴はありますか?
焦って、狼狽売りをしてしまうことです。
リスク許容度がわかっていないと、株価が落ちてしまったときに、狼狽売りをしてしまいます。投資をする前に、自分がどの程度の損失に耐えられるかを把握しておきましょう。
ーー20代にとって、金融リテラシーを早期に学ぶことのメリットは何でしょうか?
時間を味方につけることです。複利の効果で、時間をかけるほど資産は増えます。
また、暴落は買いのチャンスですが、実際に買うには勇気が必要です。若いうちに積み立てなどの形で始めると、価格の上下動に必ず遭いますが、その分投資のチャンスが増えます。
失敗を繰り返すことで、リスクを受け入れ、自分を振り返るきっかけにもなります。
40代からの資産形成:経済状況にあわせて投資する

ーー40代から資産形成を始める場合は何をするといいでしょうか?
40代になると老後のことが気になり始めます。そこで個人的におすすめしたいのが、iDeCo(個人型確定拠出年金)です。
iDeCoの魅力は税制上の優遇措置です。例えば、あなたの所得税率が20%の場合、iDeCoに積み立てた金額は所得控除となるため、投資した時点で20%の「即時リターン」があるのと同じ効果があります。
具体的には、月々23,000円(年間276,000円)をiDeCoで積み立てると、その金額に対する所得税が軽減されます。
つまり、他の投資方法と比べて、スタート地点から有利に資産形成ができるのです。
コツコツと積み立てる習慣と、この税制優遇を組み合わせることで、より効率的に老後資金を準備できます。
教育現場における金融教育の課題とは?

ーー現在の日本における金融教育の現状や課題について、どのように考えていますか?
日本の金融教育は、まだ発展途上の段階です。高校教育の中では、主に家庭科の授業で金融教育が扱われています。
家計簿のつけ方や詐欺防止、クレジットカードの使いすぎ防止といった「ブレーキを踏むタイプ」の教育が中心になりがちです。
そこに投資信託の知識を加えて、人生設計やマネープランを立てるという要素が加わりました。しかし、家庭科の先生にのみ投資教育を求めるのは少々無理があります。
そのため、私は現場とのミスマッチが大きな課題と感じているのです。
また、教える先生自身が金融や投資に詳しくないという課題もあります。投資に対してアレルギーを持つ人と、過度に踏み込んでしまう人の両極端な反応が見られ、バランスが良くありません。
ーー先生や子どもたちにどのくらい金融知識を求めますか?
先生たちには、金融に関するセミナーや講習を受けて、学んでくれるといいなあと思います。また、先生たちの投資サークルを作り、金融専門とする大学教授や銀行に勤める人に教えてもらうのも良い方法です。
子どもたちには、PayPayなどの身近なキャッシュレスツールから、お金の使い方について学習します。
そして将来、どのような仕事をして、どのくらい稼ぎたいか、もっと家族や身近な人とお金の話をするべきです。
「とりあえず投資」より「何のための投資か」
ーー最後に、個人が自分の資産形成を成功させるために、金融教育をどのように活用すべきか、20代〜40代の方へアドバイスをお願いします。
まず金融リテラシーを高めるために、書籍などを含めた複数の媒体から情報収集を始めましょう。注意して欲しいのは、友人やSNSの情報をそのまま鵜呑みにしないことです。
具体的には、以下の3ステップで始めるのがおすすめです。
- 自分の現状把握:収入・支出・貯蓄額の確認する
- 目標設定:いつまでにいくら必要か、具体的な数字を洗い出す
- リスク許容度の確認:いくらまでなら減っても焦らないか把握する
投資は、必ずしも全ての人にすすめられる資産形成方法ではありません。貯蓄が必要な段階の人もいますし、リスクを取るべきでない段階の人もいます。
いずれにせよ、最終的に最も大切なのは、自分の心です。
自分が納得できるか、満足できるか。何のためにいくら必要なのか。将来の幸せのために現在の消費をどの程度我慢して投資できるのか。
その我慢は幸せの増加につながるのか。幸せを感じられる投資でなければ、私はやらない方がいいと思います。投資は、幸せを手に入れるための選択肢の一つです。
最後に皆さんには、自分を知ることから始めてほしいと思います。
- いくらお金が欲しいのか
- 今、どのような経済状況なのか
- 現状のままで、お金を貯められるのか
- どこにお金を使っているのか
- その消費は、幸せにつながっているのか
「とりあえず投資」より「何のための投資か」を考えること、目的意識を持つことが、長期的な資産形成の成功につながりますよ!
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